研究ピックアップ 中 貴一

「音による情報提示について」

情報システム学部 情報システム学科 講師 中 貴一ナカ キイチ

#多感覚認知 #音響学

Q.1大学時代から,ずっと音に関連する研究領域をご専門に研究を行われてきたと思いますが,音に関心を持たれたきっかけを教えてください。

きっかけは単純で,音楽が好きだったからです。中学生の時に世界的トロンボーンソリストの演奏を聞いて,その凄さに衝撃を受けたことを今でも鮮明に覚えているのですが,その経験が音への関心の原点だと思っています。それから漠然と音楽に関わりたいと思っていましたが,自分には音楽家としての適性はないと感じていました。一方で数学や物理はそれなりに得意だったので,音を科学的に学ぶ道を選びました。勉強を進めていくと,私たちがいかに多くの音に囲まれて生活しているかを実感するようになり,ヒトと音の関わりについて理解を深めたいと思い,今も研究を進めています。

Q.2音の情報提示デザインの研究をされていますが,視覚情報と比べて,音の情報はどのような特性をもちますか?

見えないところの情報もキャッチできるというのが音の最大の特徴です。視覚は細かい情報を伝えることができますが,見える範囲は左右でおよそ200度に限られます。一方,音は全方位360度から情報を届けることができます。また,音は反応の速さでも優れています。音が鳴った瞬間にその方向へ注意を向けることができますし,鳴った音の印象からその情報の緊急性がわかったりもします。スマートフォンから鳴る大雨や地震の警報音も,鳴った瞬間に強く注意を引かれるかと思います。

Q.3運転や公共空間の利用時のように,多くの情報が行きかう環境において,なぜ音による情報伝達が効果的なのでしょうか?

他の感覚ではできないことを補えるからです。例えば車の運転だと,当然正面を見ながら運転しています。車の視覚情報表示は正面のインストルメントパネルに出たり,後退中はカーナビの位置,車線変更時はドアミラーのインジケータなど,いろいろなところに出ます。視覚情報は内容が分かりやすいですが,運転中は正面に集中しているため,見るべき方向をパッと見られるとは限りません。そんな時,その方向から音を提示すると,ドライバは見るべき方向を直感的に理解できます。他にも役所の待合室だと,番号がたくさん表示されていると自分の番号がわかりにくいですが,音声案内だとどこにいてもわかります。ただし,音の情報は一過性なので,後から確認できるディスプレイ表示も大切です。それぞれの感覚の利点を活かすことが肝要です。

Q.4研究において,わかりやすい情報提示はどのように評価するのでしょうか?

最もシンプルな方法は,アンケートをとることです。分かりやすかったかどうかを5段階評価などで求める方法です。非常に簡便で実用的な手法ですが,参加者が研究者の意図を汲んで回答してしまうなど,バイアスがかかりやすいという欠点があります。そのため,客観的な指標をいかに集めるかを重視しています。例えば,運転中の情報提示によって注意が適切に誘導できているかを調べる場合は,アンケートに加えて,情報を確認する課題での反応の速さや正確さ,視線移動の効率,運転操作の安定性などを合わせて評価します。また,得られた結果や提案する手法が,人の認知メカニズムに関する科学的知見に照らして妥当であるかも非常に重要です。最終的には,主観指標と客観指標,そして科学的知見との整合性を統合して評価しています。

Q.5これまでの研究で得られた知見を,今後はどのような研究領域や技術に広げていきたいとお考えですか?

音の情報提示デザインの研究では,人が音をどのように認知しているか,そのメカニズムをしっかりと捉えることを最も重要視しています。そのためにも,車載分野に限らず,音が関わる領域には貪欲に取り組んでいきたいと考えています。最近は,VR環境における音のデザインや,足音などの効果音のデザインに関する研究も進めています。いずれも,科学的な視点から,まだ学術的に明らかになっていない課題に取り組むようにしています。

Q.6産学連携の一環として共同研究を行う場合,連携機関にはどのような役割を期待しますか?また,どのような課題解決に貢献できるでしょうか?

共同研究も研究である以上,まだ明らかになっていないことに取り組むことが不可欠です。既存の知識だけでは解決できない課題に,連携して取り組むことが重要です。科学の視点から新規性を見出すのは研究者の仕事ですが,企業が持っている技術そのものが新しい研究の種になることも少なくありません。また,製品や現場といった実践の場を設けていただけることも,連携機関に期待する大きな役割です。実験室で得られた知見が実際の環境でも通用するかを検証できるのは,産学連携ならではの強みです。反対に,実際の環境で新たな課題が見つかり,それを実験室に持ち帰って検証することもしばしばあります。このように実験室と実環境を行き来する循環を生み出すことが,産学連携の理想だと考えています。

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